2026年10月3日 ・ 読了目安 5 分
最終仕入原価法とは?個人事業主の期末在庫の計算方法と、届出をしないと適用される理由
最終仕入原価法(さいしゅうしいれげんかほう)とは、 期末に残っている在庫を、その品目を最後に仕入れたときの単価(期末に最も近い日の仕入単価)で評価する棚卸資産の評価方法です。 個人事業主が棚卸資産の評価方法を税務署へ届け出なかった場合に、自動的に適用される方法でもあります。 計算に必要なのは「最後の仕入単価」と「期末の在庫数量」だけなので、入出庫のたびに単価を更新する必要はありません。
最終仕入原価法の計算式
- 売上原価 = 期首の棚卸高 + 当期の仕入高 - 期末の棚卸高(上の評価額)
- 品目は「種類・品質・型」が同じものごとに区別し、それぞれの最後の仕入単価で評価します
- 個人事業主の場合、期末は12月31日です。「12月31日から最も近い日に取得したもの」の単価が基準になります
所得税法施行令第99条第1項第1号ホは、この方法を「期末棚卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、 その年12月31日から最も近い日において取得したものの一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」と定めています (出典: e-Gov法令検索「所得税法施行令」・2026年10月3日確認)。
具体例で見る最終仕入原価法の計算
ある品目の1年間の入出庫を例にします(数値は説明用の目安です)。「総平均法とは」や「移動平均法とは」の記事と同じ取引なので、方法ごとの差を見比べられます。
| 順番 | 内容 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 期首在庫 | @1,000円で保有 | 10個 | 10,000円 |
| 仕入① | @1,200円で仕入れ | 20個 | 24,000円 |
| 出庫 | まとめて払い出し | 15個 | — |
| 仕入② | @1,400円で仕入れ | 10個 | 14,000円 |
期末の在庫は 10+20-15+10=25個です。最後の仕入れ(仕入②)の単価は1,400円なので、 期末在庫の評価額は 1,400円 × 25個 = 35,000円。 売上原価は、期首10,000円+当期仕入24,000円+14,000円=48,000円から期末在庫35,000円を引いた13,000円です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 期末在庫の評価額(25個) | 1,400円 × 25個 | 35,000円 |
| 売上原価(出庫15個分) | 48,000円 - 35,000円 | 13,000円 |
期首にあった1,000円の在庫も、仕入①の1,200円の在庫も、期末の評価では「最後の単価1,400円」に置き換わっている点に注意してください。 これが、この方法が手軽な理由であり、後述するずれの原因でもあります。
他の評価方法との違い(同じ取引で比較)
同じ取引を他の方法で計算すると、期末在庫の評価額と売上原価は次のとおりです。 売上原価はどの方法も「48,000円-期末在庫の評価額」で求められます。
| 方式 | 期末在庫の評価額(25個) | 売上原価 | 単価の決め方 |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 35,000円 | 13,000円 | 最後の仕入単価を全数に適用 |
| 先入先出法(FIFO) | 32,000円 | 16,000円 | 新しい仕入れから順に残っているとみなす |
| 移動平均法 | 31,000円 | 17,000円 | 仕入れのたびに平均単価を更新 |
| 総平均法 | 30,000円 | 18,000円 | 期間全体の平均単価を1つ出す |
仕入れ値が上がっている場面(1,000円→1,200円→1,400円)では、最終仕入原価法は4方式の中で期末在庫の評価額が最も大きく、 売上原価が最も小さくなります。売上原価が小さいほど、その年の利益(事業所得)は大きく計算されます。 逆に仕入れ値が下がっている場面では、大小関係はおおむね逆になります。 先入先出法は「先入先出(FIFO)とは」で解説しています。
最終仕入原価法は届出をしないと適用される
国税庁の案内では、新たに事業を開始した方などは、その日の属する年分の確定申告期限までに 「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」を提出して評価方法を選びます。 備考として、届出により選択をしなかった場合は、最終仕入原価法が適用されますと明記されています (出典: 国税庁「A1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続」・2026年10月3日確認)。 法令上も、評価方法を選定しなかった場合の方法は「最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法」とされています (所得税法施行令第102条)。
つまり、開業時に何も届け出ていない個人事業主は、すでに最終仕入原価法で期末在庫を評価していることになります。 法人の場合は取扱いが異なるため、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
最終仕入原価法のメリット・デメリット
- メリット: 最後の仕入単価と期末の在庫数量があれば計算でき、入出庫のたびの単価計算が不要
- メリット: 仕入伝票(請求書)を見れば単価がわかるので、手計算や表計算ソフトでも回しやすい
- デメリット: 期中に仕入単価が大きく動く品目では、直近の単価1つで全数を評価するため、期間の実態から離れやすい
- デメリット: 期末近くの仕入れが特価や急騰価格だった場合、その単価が期末在庫の全数に及ぶ
- デメリット: 期末の在庫数量がずれていると、評価額もそのまま数量分ずれる
数量のずれを減らすには、期末の実地棚卸を丁寧に行うのが先決です。進め方は「実地棚卸とは」にまとめています。
最終仕入原価法から別の評価方法へ変えるには
評価方法の変更は、税務署長の承認が必要です。所得税法施行令第101条は、変更しようとする方法を採用する年の3月15日までに申請書を提出するよう定めており、この「変更」には、届出をしなかったために最終仕入原価法が適用されている場合も含まれます (出典: e-Gov法令検索「所得税法施行令」第101条・2026年10月3日確認)。 国税庁の案内でも、従来の評価方法を変更する場合は「所得税の棚卸資産の評価方法、減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」の提出が必要とされています。 どの方法が自分の事業に合うかは、仕入単価の動き方と手間のバランスで決まるため、申請前に税理士・所轄税務署へ相談するのが安全です。
よくある質問
Q. 最終仕入原価法を使うのに届出は必要ですか?
A. 不要です。評価方法を届け出なかった個人事業主には、最終仕入原価法が自動的に適用されます(国税庁 A1-17 の備考)。
Q. 品目ごとに単価が違う場合はどう計算しますか?
A. 種類・品質・型が同じ品目ごとに区別し、それぞれの最後の仕入単価で評価します(所得税法施行令第99条第1項第1号ホ)。 品目ごとに「単価×期末数量」を出して合計したものが、期末棚卸高になります。
Q. 最終仕入原価法と低価法は別のものですか?
A. 別の軸です。最終仕入原価法は「原価をどう決めるか」の方法のひとつで、低価法は、原価法で出した評価額と12月31日時点の価額を比べて 低いほうを評価額とする方法です(所得税法施行令第99条第1項第2号)。
Q. 期末の少し前に仕入れた特価品の単価が、全在庫に使われるのですか?
A. 定義上は、12月31日から最も近い日に取得した単価が基準になるため、同じ品目はその単価で評価されます。 品目によって単価のぶれが大きい場合は、別の評価方法のほうが実態に合うこともあるため、税理士にご相談ください。
タナオロでできること
タナオロは在庫の数量管理に特化した在庫管理アプリで、仕入単価から評価額を自動計算する機能は搭載していません。 品目ごとに単価をひとつ設定して、在庫金額のおおまかな目安を見る使い方に向いています。 最終仕入原価法に必要な「期末の在庫数」は、タナオロの入出庫履歴と棚卸で正確に残せるので、 評価額の計算は会計ソフト側に、数量管理はタナオロにと役割を分けて運用できます。 登録から30日間はスタンダードプラン (月4,980円) の機能を無料で試せ、 Excel・zaicoのCSVもそのまま取り込めます (お試し後の無料枠は10件)。
出典・確認日(いずれも2026年10月3日確認)
本記事は一般的な解説であり、個別の税務判断は税理士または所轄税務署にご確認ください。