2026年10月5日 ・ 読了目安 6 分
売価還元法とは?小売店の期末在庫を売価から計算する方法と、届出・向き不向き
売価還元法(ばいかかんげんほう)とは、期末に残っている在庫を「売価(値札の価格)の合計」に「原価率」を掛けて評価する棚卸資産の評価方法です。 品目ごとの仕入単価を追いかけなくても、期末在庫を値札どおりに数えて売価の合計を出し、店全体(または商品グループ)の原価率を掛ければ評価額が出ます。 品数が多く、仕入単価の管理が現実的でない小売店向きの方法です。個人事業主が使うには、税務署への届出が必要です。
売価還元法の計算式
期末在庫の評価額 = 期末在庫の売価総額 × 原価率
- 期首の棚卸高・当期の仕入高は原価(仕入れた金額)で入れます
- 期末在庫の売価総額は、12月31日に残っている商品を「値札の価格 × 数量」で合計した金額です
- 当期の売上高は、その年に実際に販売した金額の合計です
- 売上原価 = 期首の棚卸高 + 当期の仕入高 - 期末の棚卸高(上の評価額)
所得税法施行令第99条第1項第1号ヘは、この方法を「期末棚卸資産をその種類等又は通常の差益の率の異なるごとに区別し、その年12月31日における通常の販売価額の総額に原価の率を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法」と定めています。 原価の率は、「通常の販売価額の総額とその年中に販売した対価の総額との合計額」のうち「1月1日の取得価額の総額とその年中に取得した取得価額の総額との合計額」が占める割合です (出典: e-Gov法令検索「所得税法施行令」・2026年10月5日確認)。上の計算式は、この条文を式に直したものです。
具体例で見る売価還元法の計算
値下げをしていない、ある小売店の1年間の数字を例にします(数値は説明用の目安です)。
| 項目 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 期首の棚卸高 | 前年末の評価額(原価) | 300,000円 |
| 当期の仕入高 | 1年間の仕入れの合計(原価) | 1,200,000円 |
| 当期の売上高 | 1年間の販売額の合計 | 1,800,000円 |
| 期末在庫の売価総額 | 12月31日の在庫を値札 × 数量で合計 | 600,000円 |
| 計算 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 原価率 | (300,000 + 1,200,000)÷(600,000 + 1,800,000) | 62.5% |
| 期末在庫の評価額 | 600,000円 × 62.5% | 375,000円 |
| 売上原価 | 300,000 + 1,200,000 - 375,000 | 1,125,000円 |
この例の売上総利益は、売上高1,800,000円-売上原価1,125,000円=675,000円です。 値下げがなければ、売上高 × 原価率(1,800,000円 × 62.5%)でも売上原価1,125,000円になり、計算が合います。 品目ごとの仕入単価は一度も使っていない点が、この方法の特徴です。
なお、条文は期末在庫に掛ける売価を「通常の販売価額」、売上高側を「販売した対価の総額」と書き分けています。 値下げ販売をした場合の扱いなど細かい点は、税理士・所轄税務署にご確認ください。
他の評価方法との違い(同じ取引で比較)
「総平均法とは」などで使った取引(期首10個@1,000円・仕入20個@1,200円・出庫15個・仕入10個@1,400円)に、販売価格が一定の@2,000円という条件を足して売価還元法で計算します。 期末在庫は25個で売価総額50,000円、売上高は15個 × 2,000円=30,000円、原価率は 48,000円 ÷(50,000円+30,000円)=60% です。
| 方式 | 期末在庫の評価額(25個) | 売上原価 | 単価の決め方 |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 35,000円 | 13,000円 | 最後の仕入単価を全数に適用 |
| 先入先出法(FIFO) | 32,000円 | 16,000円 | 新しい仕入れから順に残っているとみなす |
| 移動平均法 | 31,000円 | 17,000円 | 仕入れのたびに平均単価を更新 |
| 総平均法 | 30,000円 | 18,000円 | 期間全体の平均単価を1つ出す |
| 売価還元法(売価@2,000円一定) | 30,000円 | 18,000円 | 売価総額に原価率を掛ける |
売価が一定の1品目なら、売価還元法の結果は総平均法と一致します(原価率 × 売価=期間全体の平均単価になるため)。 つまり売価還元法の本領は、品目が何百・何千とあり、品目ごとに平均単価を出せない店で、値札と帳簿の合計だけで総平均法に近い評価額を出せることです。 ほかの方法は「移動平均法とは」、「先入先出(FIFO)とは」、「最終仕入原価法とは」で解説しています。
売価還元法が向く店・向かない店
| 向く店 | 向かない店 | |
|---|---|---|
| 品数 | 雑貨・衣料・食品など品目が多い | 高額品・一点物が中心(個別法のほうが実態に合う) |
| 値付け | 商品に値札があり、売価が決まっている | 売価が案件ごとに変わる・受注生産 |
| 利益率 | 同じグループなら差益率がそろっている | 商品ごとに差益率が大きく違い、分けて集計できない |
| 期末の数え方 | 値札 × 数量で棚卸できる | 仕入単価でしか在庫を把握していない |
条文は、期末棚卸資産を「種類等又は通常の差益の率の異なるごとに区別」して計算するよう求めています。 差益率の違う商品群(たとえば食品と雑貨)は、グループごとに原価率を出す必要があるということです。
売価還元法の手順
- 112月31日に実地棚卸をする。商品を数え、値札の価格を掛けて売価総額を出します。進め方は「実地棚卸とは」にまとめています
- 2期首の棚卸高と当期の仕入高を帳簿から拾う。期首の棚卸高は前年末の評価額、仕入高は仕入れの合計(原価)です
- 3当期の売上高を帳簿から拾う。商品グループを分けるなら、グループごとに拾います
- 4原価率を出す。(期首の棚卸高 + 当期の仕入高)÷(期末の売価総額 + 当期の売上高)です
- 5期末の評価額を出す。期末の売価総額 × 原価率です。この金額が期末棚卸高になり、売上原価の計算に使われます
売価還元法のメリット・デメリット
- メリット: 品目ごとの仕入単価を追わず、「売価の合計・仕入高の合計・売上高の合計」だけで計算できる
- メリット: 期末の棚卸を値札 × 数量で進められ、仕入伝票をさかのぼる必要がない
- デメリット: 原価率は店全体(またはグループ)の平均なので、個々の商品の原価は出ない
- デメリット: 差益率の違う商品を1つにまとめると、原価率がぶれて評価額が実態から離れる
- デメリット: 売価の管理が前提になる。値札がない・売価の変更履歴が残っていない店では使いにくい
売価還元法を使うには届出が必要
国税庁の案内では、新たに事業を開始した方などは、その日の属する年分の確定申告期限までに 「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」を提出して評価方法を選びます。 備考として、届出により選択をしなかった場合は、最終仕入原価法が適用されますと明記されています (出典: 国税庁「A1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続」・2026年10月5日確認)。 つまり、売価還元法を使いたい場合は、届出で売価還元法を選んでおく必要があります。
- すでに別の方法を選んでいる・最終仕入原価法が自動適用されている場合は、変更の承認申請が必要です。 新しい方法を採用する年の3月15日までに申請書を提出します(所得税法施行令第101条)
- 青色申告の承認を受けていない場合に選べるのは、第1号の原価法(売価還元法を含む)に限られます。低価法は選べません(同令第99条第1項)
- 法人の場合は取扱いが異なります。顧問税理士・所轄税務署にご確認ください
よくある質問
Q. 売価還元法は個人事業主でも使えますか?
A. 使えます。所得税法施行令第99条第1項第1号ヘに定められた評価方法のひとつで、届出で選択します。
Q. 届出をしていなかった場合はどうなりますか?
A. 最終仕入原価法で評価したものとして扱われます(所得税法施行令第102条第1項)。売価還元法へ切り替えるには、変更の承認申請が必要です。
Q. 原価率は商品ごとに出す必要がありますか?
A. 商品ごとではなく、種類等または差益率が同じ商品のグループごとです(同令第99条第1項第1号ヘ)。差益率がほぼ同じなら店全体で1つの原価率でも成り立ちます。 どこまでまとめてよいかの線引きは、税理士にご相談ください。
Q. 値下げした商品は、売価をどう扱えばよいですか?
A. 条文は、期末在庫に「通常の販売価額」を使い、売上高側は「販売した対価の総額」(実際の販売額)と書き分けています。 値下げ分の細かい扱いは、税理士・所轄税務署にご確認ください。
Q. 低価法と一緒に使えますか?
A. 低価法は、原価法で出した評価額と12月31日の価額を比べて低いほうを評価額とする方法で、売価還元法の評価額を基礎にすることもできます(同令第99条第1項第2号)。 ただし低価法は青色申告の承認を受けている場合に限られます。
タナオロでできること
タナオロは在庫の数量管理に特化した在庫管理アプリで、原価率や評価額を自動計算する機能は搭載していません。 品目ごとに単価を1つ設定すると、一覧に「在庫金額合計」(数量 × 単価の合計)が表示されます。 単価欄に値札の価格を入れておけば、売価ベースの在庫総額のおおまかな目安として使えます(単価を入れた品目だけが対象です)。 原価率の計算は会計ソフトや表計算に任せ、期末の「数量」と「売価の合計」の下準備をタナオロでする、という分担が向いています。 登録から30日間はスタンダードプラン (月4,980円) の機能を無料で試せ、 Excel・zaicoのCSVもそのまま取り込めます (お試し後の無料枠は10件)。
出典・確認日(いずれも2026年10月5日確認)
本記事は一般的な解説であり、個別の税務判断は税理士または所轄税務署にご確認ください。